株式会社 GoldenHarvest 代表取締役 鍬裕介さん
    要件定義は"橋渡し"。先回りして要件の本質を捉える

    鍬さん丸山さん

    日頃KSRで活躍されている鍬さんに、KSR SS事業部責任者の丸山がインタビューを行いました。

    Q:要件定義って何?と聞かれたら、どう答えますか?

    「橋渡し」だと思います。たとえば、事業部長や社長が語る"要望"(こうしたい)や要求(こうあるべき)を、エンジニアやデザイナーが理解できる形に返還してまとめるのが"要件"です。そして、その要件を作る作業が要件定義。つまり、要件定義とは、「要件の裏にある要求を整理し、作り手が動ける"設計可能な言葉"に返還する」プロセスだと考えています。

    Q:実際に要件定義するときに、大事にしていることは何ですか?

    僕は必ず「さらに先」にいるエンドユーザーまで見に行きます。経営層の言葉をそのまま鵜呑みにするのではなく、「誰に・何をどう届けたいのか?」を掘り下げる。その要求が本当にユーザーを喜ばせるのか、実現可能なのかを両面から考えて検証します。要件定義は"翻訳"だけではなく、"問い直し"でもあると思います。

    Q:要件がまとまらずに苦労した経験はありますか?

    よくあるのは、「作ること自体が目的化」してしまうケースです。特にエンジニア出身の経営者に多いのですが、「作りたい」が先行しすぎて、本当に必要かどうかの検証が抜けてしまう。そういうときは、似たサービスや既存ツール(例えば Zapier や Kintone など)を例に出して、「なぜ今あえてつくるのか?本当に作る意味は何か?」を問い直します。目的が定まらないと、要件は進みませんから。

    Q:逆に要件が明確になってプロジェクトがうまく進んだ事例はありますか?

    ユーザーインタビューを見せてくれたり、一緒に訪問して話を聞けたときですね。生のお客さんの声に触れられたときは、要件の解像度が一気に上がります。エンドユーザーの課題や喜びを直接聞けると、「これこそが本当に必要なものだ」という確信を持って要件を定義できます。

    Q:要件定義で大事なスキルや視点は何ですか?

    私は「BOSCAR」というフレームワークをよく使います。

    Background(背景) | Objective(目的) | Scope(範囲) | Constraint(制約) | Assumption(前提) | Risk(リスク)

    要件をビジネス視点から整理する際の指針になり、お客様ヒアリングでも、自然に問いを深められます。なかでも、新人やこれから要件定義を学びたい人には、まず「スコープ」押さえる練習を勧めます。どこまで作るのか、どの機能を入れるのか。スコープを正しく切る力が、要件定義の土台になります。

    Q:要件を見てもピンと来ないクライアントには、どう対応していますか?

    機能一覧ではなく、課題解決のマイルストーンを示します。「こういう課題を解決するために、まずはここを目指す」という段階的なゴールを提示する。あわせて、法規制や調査の前提条件も共有します。背景と制約まで含めて説明すると、安心してもらえることが多いです。

    Q:まだ作るものが決まっていない状態で相談されたらどう対応しますか?

    業界によって対応は変わります。変化がゆるやかな業界なら、一緒に伴走しながら要件を固めていく。逆に AI 領域のように変化が激しい領域の場合は、仮にプロジェクトが失敗しても軸を見失わないよう、「本当にやりたいこと」を合意してから走り始めます。

    Q:要件定義を進める上で、最低限そろっていてほしい情報はどのようなことですか?

    「誰のために、何を作り、どう喜ばれるのか」

    「その価値にお金を払う人はどれくらいいるのか」

    「競合と比べてどこが独自なのか」

    この 3 点がないと、シャープな要件に返還するのは難しいです。だからこそ、クライアントといっしょにここを掘り下げる時間を大事にしています。

    Q:アジャイルで進めるとき、要件定義の仕上げ方やバランス感ってどう捉えていますか?

    「アジャイル」と一口に言っても、規模や予算で姿はまったく変わります。ゼロイチの新規事業なら、まずはエンジニアを入れずにビジネス設計と要件定義に集中する。その後、追加機能や拡張でアジャイルを活かすほうが効果的です。フェーズごとに"どこまで固めるか"のバランスを見極めることが肝心ですね。

    ▶︎ 編集後記

    鍬さんの話は、要件定義を"先回り"で支える実践でした。表に出た要望をそのまま翻訳するだけでなく、「本当に誰に・何を・どう喜ばれるのか」を問い直し、エンドユーザーまで見に行く。さらに BOSCAR(背景・目的・範囲・制約・前提・リスク)で前提と不安を見える化し、課題解決のマイルストーンを示して判断を助ける。変化の大きい領域では、走り出す前に"本当にやりたいこと"の合意を固め、業界やフェーズに合わせてどこまで固めるかを調整する姿勢が効いてきます。立場を変えて相手の視点に立つことが、結果としてより良い判断や設計につながる。鍬さんの実践は、読者の皆さまにとっても新しい発見をもたらしてくれるはずです。