
【広告提案の市場・競合リサーチをAIで標準化し、工数62%削減】
Difyのワークフローを「現場が迷わず使える形」まで実装し、属人化と情報欠落を止める業務設計・実装事例
AIツールを導入したのに、結局「一部の詳しい人しか使えない」。現場は相変わらず、ひたすらに手作業のスクショとコピペでExcelを埋めている。今回ご紹介するのは、上場企業系列の広告代理店グループにて、AIワークフロー(Dify)を"現場で使い切れる形"に整え、リサーチ工数を62%削減した支援事例です。単にプロンプトを作るのではなく、複数部門の課題を棚卸し→優先順位付け→構想→実装→引き継ぎまで一貫して伴走し、クライアント側のAI導入チームが"自走できる状態"へつなげました。今回はそんな事例について、IT/AIコンサルタントとしてクライアントを支援された山根さんに詳しくお話しをお伺いしました。
こんな方に読んでほしい記事です
- 事業責任者/統括:AI投資をしているが、成果が「点」で終わっている
- AI推進/情シス:現場課題の整理や優先順位が付けきれず、導入が進まない
- 企画/営業マネージャー:案件が増えるほど情報が欠落し、品質と信頼が落ちる
- 現場担当(アシスタント含む):リサーチや資料作成が泥臭く、時間が溶ける
1. 本事例の背景(相談の入口)

依頼の背景にあったのは、「AIを使える社員はいるが、全体課題を握って"個別最適ではなく、全体最適につなげるしくみ"を実現できる人がいない」という状況でした。
Dify等のAIツールは導入済みにも関わらず、担当者ごとに使い方がバラバラで、成果が業務全体に広がらない。そこで「課題把握→優先順位→実装→定着」まで一貫して支援できる人材が必要となり、山根さんがご支援する運びとなりました。
広告提案では、社内の業界知識だけでは足りず、競合や業界トレンドといった"外的情報"を集めたうえで、クライアント企業のポジションや製品の位置づけを定義して提案する必要があります。
現場側では、広告企画・提案に必要な情報が増えるほど、手作業が積み上がっていました。"調べて、まとめて、提案に落とす"工程が積み上がるほど、業務は重くなっていきます。案件が1〜2件ならなんとか回るものの、複数案件を並行し始めると、情報共有は綻びやすい。結果として、情報の欠落→数字とファクトの不一致→信頼の失墜→成長の鈍化が起きやすくなる、という問題意識が語られています。
2. 課題(支援先で起きていたこと)

課題は大きく2つありました。1つ目は、現場の業務が「根拠に基づく判断」ではなく、肌感や経験則で回りやすいこと。例えばCPAの見立てが「だいたいこれくらい」という"ガッツ感や暗黙知ベース"で回ってしまい、仕組み化されないまま人の手で回し続ける。そうすると、案件が増えるほど成長が止まりやすい状態になります。2つ目は、AIツール(Dify)自体は導入されていても、現場が使いこなせず「全社の利益につながる設計」まで落とし込めていないことです。
担当者が各自で工夫しても、部門・会社全体の課題を把握し、どこをAI化すると効くのかを決めきれない。さらに活用事例やポテンシャルのインプット不足もあり、結果として"点の自動化"で止まってしまうという整理でした。
3. ゴール(何を"できる状態"にするか)

今回のゴールは「単純にAIツールを導入すること」ではありません。現場の泥臭い作業を"確実に減らし"、しかも属人化せずに回り続けるように、以下のような状態を作ることでした。
- 必要な情報/不要な情報が切り分けられ、アウトプットが安定する
- 担当者が迷わず入力でき、同じ品質で出力できる
- Difyを"現場が迷わず使える入力UI"まで実装する
- 山根さんがプロジェクトを離脱した後でも、社内のAI導入チームが同じ考え方で回せる
"効率化"と"継続性"をセットで取ることが必要でした。
4. 支援のスタンス(どういうマインドで関わるか)

山根さんいわく、今回のプロジェクトに限らず、プロジェクト支援に関わる際のスタンスや意識していることとして、「一言で言うと、ある種の"映え"を意識することはあるかもしれない」と語られます。これは単に派手なパフォーマンスをする、という意味ではありません。
多くの企業にとって目新しい領域であるAI領域では、前例が乏しいこともあり、予算や創出効果を適切に設計しきれないまま発注せざるをえないシーンが散見されます。だからこそ発注担当者が最初に気にするのは早期での投資対効果の見立てであり、支援初期は"お手並み拝見"の期待値が乗る。
そのため、まず目に見える成果が上がるところに早急に着手するのが勝ち筋だ、という文脈です。その上で、必要な仕組み作りや引き継ぎ(属人化させない)までやり切り、「成果を早く出すこと」と「続く形に落とすこと」を、順番として両立させる。こうすることで創出効果の見通しがたち、社内での合意形成もスムーズになる。このスタンスが、複数の類似プロジェクトにおいて大きな推進力になっています。
5. 進め方(実行してきたこと)と工夫点(意思決定を前に進めたポイント)

5-1. 現状業務を可視化し、課題を一覧化する
まずは現状の業務をヒアリングし、業務フローとして可視化。そのうえで「経営方針(あるべき)とのギャップ」を手がかりに、困りごとを引き出していきました。人数が多い部署では全員に当たらず、マネージャー・アシスタントなど役割を決めてサンプリングしています。
5-2. 重要度×緊急度で整理し、まず"効くところ"から着手
課題を一覧化した後は、重要度・緊急度(重大度)で整理し、「まず目に見える成果が出る領域」から着手しました。ここでの肝は、最初から完璧な仕組みを作りにいかないこと。「支援のスタンス」として先述しましたとおり、導入の初期は、期待値も高く、ボールも集まりやすい。だからこそ、勝ち筋のあるところを先に取りにいきます。
5-3. 市場・競合リサーチを"必要情報だけ出る形"に再設計し、AIで一発出力
クイックウィンとして着目したのはインターネットリサーチを前提とした4C分析や市場分析でした。
従来、多くのインターンや若手社員が競合情報をWeb上で検索し、スクリーンショットやコピー&ペーストで収集したうえでExcelに整理する、という業務を行っていました。
一方で、一定の時間と労力をかけて情報を集めても、分析に不要な情報が多く混在してしまい、最終的に「何を使うべきか」を再度マネージャも含めた人手で判断する必要がある点が課題でした。
To-Beとしては、単に「AIにリサーチさせる」ことが想定されますが、ここで本質的に解くべき論点は、工数削減そのものではなく、"必要な情報"と"不要な情報"をいかに切り分けるかです。
そこで、この論点を踏まえたプロンプトを現場業務に落とし込み、AIが目的に沿った情報だけを抽出・整理できる仕組みを構築しました。これにより、従来のような網羅的な情報収集ではなく、分析に直結するムダのないアウトプットを短時間で生成できる状態を実現しました。
5-4. Difyを"現場が迷わず使える入力UI"に落とし込む
現場に定着させるために、コンサルだけで終わらせず実装まで担当をしました。そのなかでも特に工夫したのは、入力の制約などをUI側に組み込み、担当者が「指定のフォーマットに従って入力するだけでアウトプットが出る」状態を作ったことです。固有名詞などNG要素が入りやすい点も踏まえ、入力段階で事故を減らしています。
5-5. 暗黙知と例外ルールを言語化し、プロンプトに仕込む
難所は単純作業よりも「暗黙知」です。外から見ると同じホームページでも「これはOK/これはダメ」があり、さらに状況によって例外分岐も多い。ここをルールとして切り出し、プロンプトに仕込む作業が最も苦労したポイントです。プロンプトの1文字1文字を全レビューしてもらうのではなく、全体フローと例外ルールを切り出して分かりやすく説明し、確認の粒度を最適化しました。
5-6. 作って終わりにしない(情報を閉じない)
属人化を避けるため、情報を自分に閉じさせないことを重視しました。都度ミーティングで進捗と意図を共有し、プロンプトの工夫やワークフローの作り方をクライアント側がキャッチアップできる状態を作りました。
5-7. 会話ログ+ワークフロー(YAML)共有で、引き継ぎを"お手本ベース"にする
山根さんが離脱した後も現場が改善サイクルを回せるように、会話ログを残し、DifyのワークフローのYAMLのコピーを共有。まず山根さんが作ったお手本を編集できる状態を作り、未経験者でも操作できるようにしました。
6. 成果

最も分かりやすい成果は、リサーチ業務に関わる工数削減です。
泥臭いスクショ・コピペ・Excel埋め込みの作業を、AIでの一発出力+人のファクトチェックへ切り替え、業務工数62%削減を達成しました。リサーチ工数を大幅削減にしたことで、担当者はファクトチェックや理解の深掘りに時間を使えるようになりました。
さらに、単発の改善に留まらず、2〜3プロジェクトを横断する中で、AI導入チーム側が同じ思考フローで自走できるようになった点が、大きなバリューだと思います。「私がいないと回らない」ではなく、組織としてワークフローを作っていける状態へ。この変化が、次の展開を可能にし、"数字で見える改善"だけで終わらせず、社内にナレッジが残る形にしたことが、本人離脱後の継続運用につながります。

7. 最後に(総括)
AI活用が止まりやすいのは、「ツールがない」からではありません。課題が棚卸しされず、優先順位が付かず、現場の業務に"使える形"で落ちていない。このどこかが欠けると、Difyのようなワークフロー基盤も"宝の持ち腐れ"になります。
本事例の肝は、複数部門の課題を同じ土俵に並べ、クイックに成果が出る領域から着手し、プロンプトとUIをセットで実装して定着させ、さらに引き継げる形にしたこと。要件定義とは「仕様を書くこと」だけではなく、現場が迷わず動ける"運用可能な形"まで落とし切ることだと、改めて感じさせられるとともに、その価値がよりわかりやすく伝わるような支援事例でした。
インタビュイー:山根さん
IT/AIコンサルタントとして、ERP導入、業務改善、AI活用、データ設計、新規事業企画など幅広いプロジェクトに従事。PMや要件定義だけでなく、現場ヒアリング、業務フロー整理、課題構造化、ツール選定、実装・運用設計まで一気通貫で支援。近年は生成AIやデータ活用領域に注力し、Dify、Vertex AI、Bedrockなどを用いた業務効率化・AIワークフロー構築も推進。現場と経営の両視点を踏まえ、曖昧な課題を実行可能な施策に落とし込むことを強みとする。
スキル・強み
- 抽象的な業務課題を、要件定義・業務フロー・運用設計に落とし込むこと
- ERP、データ基盤、生成AIを横断し、業務・システム・AI活用を一体で設計する実装力
- 関係者を巻き込みながら、方針策定から実装・運用定着まで進めるプロジェクト推進力
本事例の情報
- 業界:広告代理店
- 体制:経営層直下のAI導入チームに所属し、複数の業務部門への支援
- 支援範囲:営業部門・クリエイティブ事業部門・企画部門
