Microsoft 365 Copilotの定着化|全社展開で「使われない」を防ぐチャンピオン制度と事例共有ARTICLE
ARTICLEMicrosoft 365 活用
※ Microsoft 365 Copilot は、2026年8月から「Microsoft Copilot」に名称が変わりました(Copilot Chat は「Microsoft Copilot Chat」)。移行期間中は旧名称も併用されているため、本記事では広く使われている「Microsoft 365 Copilot」の表記で統一しています(出典:Microsoft Learn「Microsoft Copilot のデータ、プライバシー、セキュリティ」)。
「全社にライセンスを配って、説明会も開いた。最初はみんな触っていたのに、3か月たったら使っているのは一部の人だけになった」——Microsoft 365 Copilot の全社展開のあとで、よく聞くご相談です。
原因は、社員のやる気やITスキルではないことがほとんどです。自分の仕事のどこで使えばいいか分からない、入力して大丈夫なのか不安が残っている、困ったときに聞ける人がいない。そして、同じ研修を受けても分かる人と分からない人がいて、分からなかった人から使わなくなる。これらが残ったままでは、良い道具でも日常業務には入り込みません。
本記事は、第1回:非IT企業のMicrosoft 365 Copilot導入ロードマップで示したフェーズ4「全社展開と定着化」を扱う第7回の前編です。「配った」を「使われている」に変える仕組みを、不安の解消、使う人と広げる人の2層づくり、事例の共有、定着の測り方の順に解説します。研修の組み立て方は、後編:Microsoft 365 Copilotの社内研修の進め方で扱います。
この記事の要点
- 定着しない原因は、仕事と結びつかない・不安が残る・聞く相手がいない・理解の速さに差がある、の4つです。1回の説明会ではなく、展開後の数か月をかけて仕組みで解消します
- 社員の不安には、会社のアカウントのCopilotでは入力内容が基盤モデルの学習に使われないことを会社として明言して応えます
- 社員を「使う人」と「広げる人」の2層に分け、各部門の広げる人(チャンピオン)が、隣の部署でも真似できる事例を集めて回します
- K.S.Rogers の支援先では、推進役を事務局が支え、個別の業務を型でくくって部署をまたいで持ち込みました。「自分の仕事に意味がないと言われているようだ」という現場の不安には、AI は隣で支える相棒だと根気よく伝えます
Microsoft 365 Copilotの定着化とは
Copilot の定着化とは、ライセンスを持つ社員が、特別な意識をせずに日常業務の中でCopilotを使っている状態を作ることです。ライセンスの割り当て、ガイドラインの配布、操作説明会で終わっているのは「使える状態」までで、「使われている状態」とは別物です。
定着したと言えるのは、たとえば次のような状態です。
- 会議のあと、誰に言われなくても Copilot で要点と宿題を整理している
- 部門の中で「このやり方が便利だった」という話が自然に出てくる
- 使っていない席が把握され、必要な人に付け替えられている
展開はプロジェクトの終わりではなく、定着化フェーズの始まりです。
全社展開したCopilotが定着しない4つの理由
| 理由 | 社員の声 | 足りないもの |
|---|---|---|
| ① 仕事と結びつかない | 「すごいのは分かったけど、自分の仕事で何に使えばいいのか」 | 自分の業務を素材にした練習と、同じ部署の実例 |
| ② 不安が残っている | 「入力した内容が学習されたり、漏れたりしないのか」 | 会社としての明言と、使ってよい範囲のルール |
| ③ 聞く相手がいない | 「うまくいかないけど、誰に聞けばいいか分からない」 | 部門の中の相談相手と、質問できる場 |
| ④ 理解の速さに差がある | 「研修では分かった気がしたのに、翌週にはやり方を忘れていた」 | 理解の速さに合わせた段階別の研修と、繰り返し学べる場 |
どれも1回の説明会では解消できません。展開後の数か月をかけて、仕組みで解消します。本記事では②③と①の事例の部分を、後編では①の研修と④を扱います。
「データが学習に使われない」を明言する
使わない理由として根強いのが、「入力した内容がAIに学習されて、どこかに漏れるのではないか」という不安です。説明会で1度話しただけでは消えないため、会社として公式に、繰り返し明言することが利用促進策になります。
根拠は Microsoft の公式情報にあります。会社のアカウントで使う Microsoft 365 Copilot と Copilot Chat にはエンタープライズデータ保護(EDP)が適用され、プロンプト(入力)と応答は Exchange のメールや SharePoint のファイルと同じ契約条件で保護されます。また、プロンプト・応答・Microsoft Graph 経由でアクセスされる社内データは基盤モデルのトレーニングに使われないと明記されています(出典:Microsoft Learn「エンタープライズ データ保護」)。
社内への周知文は、たとえば次のようにします。
当社の Microsoft 365 Copilot は、会社のアカウントでサインインして使う限り、入力した内容や社内のファイルがAIの学習に使われることはありません。一方、個人のアカウントで使う無償のAIサービスにはこの保護がありません。業務の情報は、必ず会社のアカウントの Copilot で扱ってください。 Copilot が参照するのは、あなたが普段から閲覧できるファイルやメールだけです。見えてはいけない資料が表示された場合はファイルの共有設定の問題ですので、情報システム担当までお知らせください。
安心材料だけを強調すると「何を入れても大丈夫」と受け取られます。個人アカウントの無償AIとの線引きと、権限の問題を見つけたときの連絡先をセットで伝えるのがポイントです。社内規程との関係で「そもそも使ってよいのか」が残っている場合は、特別編:その社内規則、Microsoft 365 Copilotを禁止していますか?の読み合わせを先に済ませます。
なお、現場の不安は情報の扱いだけではありません。仕事のやり方が変わること自体への不安もあります。
K.S.Rogers の現場から
当社の支援先では、前年度に作った仕組みをもとに、社内広報の資料と字幕付きのデモ動画を作り、部門全体に紹介しました。一方で現場からは、「ベテランの私のほうができる」「私の仕事に意味がないと言われているようだ」という声も出ます。こうした声には、AI は競争相手ではなく隣で支える相棒であること、省人化しても人は要ること、使う本人にもメリットがあることを、1回で終わらせず根気よく伝えています。
使う人と広げる人 ― 利用者を2層に分ける
全員に同じことを求めると、定着はかえって遅れます。社員を次の2層に分けて、それぞれに違うゴールを置きます。
| 層 | 誰が | ゴール |
|---|---|---|
| 使う人 | ライセンスを持つ全員 | 自分の業務で、迷わず Copilot を使える。困ったときに聞く先を知っている |
| 広げる人 | 各部門に1人程度(チャンピオン) | 部門の困りごとを拾い、使い方を考えて周りに広げる。同僚の相談に乗る |
大事なのは、全員を「広げる人」にしようとしないことです。使う人に求めるのは、決まった使い方を日常で使えることまでです。自分で新しい使い方を考えて広げる役は、部門に1人いれば回ります。この区別がないと、研修の内容が全員にとって中途半端になり、理解の速い人は物足りず、遅い人はついていけなくなります。
チャンピオン制度の作り方 ― 広げる人を立てる
チャンピオンとは、各部門の中で Copilot の使い方を広め、同僚の相談に乗る推進役です。2層のうちの「広げる人」にあたります。Microsoft も、早期導入者やチャンピオンのコミュニティを作ることで、質問をIT部門だけで抱えずに済み、各部門のニーズに合った形で Copilot の価値を伝えられると説明しています(出典:Microsoft Learn「Microsoft Copilot を設定し、ライセンスを割り当てる」)。
選び方は、ITに詳しいかどうかより、担当業務に詳しいこと、普段から周囲に相談されていること、新しいやり方を試すのが苦にならないことを優先します。第6回で扱うパイロットの参加者は最有力の候補です。人数は部門に1人が目安です。
役割は、部門内の相談に乗る、うまくいった使い方を見つけて投稿する、ハンズオンで操作を手伝う、「このルールが使いにくい」といった声を推進責任者に伝える、の4つです。
制度が形だけになる最大の原因は、本業の上に善意で乗せてしまうことです。始める前に、次の3つを決めておきます。
- 業務時間の一部をチャンピオン活動に使ってよいことを、上司と合意する
- 活動を評価の対象として扱う(少なくとも不利に扱わない)
- チャンピオン同士が情報交換する場を作る(月1回の短い定例で十分です)
チャンピオンを孤立させないために、全体をまとめる事務局も置きます。
K.S.Rogers の現場から
製造業の会社様と金融機関の AI 活用を支援する中で、推進の型はトップダウン・ボトムアップ・ミドルマネジメントの3つに分かれました。トップの目的と現場の課題の両方を分かった中間の管理職が上にも現場にも働きかける形がうまく進む一方、推進役の負担が大きく、兼務のままだと止まります。そこで、事務局が賛同者を募る、社内広報で成果を伝える、勉強会を開く、よく使う人を紹介する、外部からの相談の窓口を1本にする、といった全体の管理を受け持ちます。部門の方針に合わない個別の要望は採らない判断も、事務局の役目です。
Microsoft は「Microsoft 365 チャンピオン プログラム」を無料で公開しており、チャンピオン向けの学習資料や交流の場を利用できます(出典:Microsoft Adoption「Microsoft 365 Champion Program」)。
自社の事例を教材にする ―「すごい使い方」より「真似できる使い方」
定着を進めるいちばんの材料は、社外の華やかな事例ではなく、社内の、隣の部署の事例です。「同じ会社の、同じようなシステムを使っている人ができた」という事実が、「自分にもできそうだ」という手応えにつながります。
社内で共有する事例は、高度な使い方である必要はありません。明日、隣の席の人が真似できることが大切です。書き方がバラバラだと読まれなくなるので、型を決めます。
たとえば「業務と以前の時間(週1回の営業会議の議事録、手書きで約40分)」「Copilot での使い方と実際の指示」「今の時間(確認込みで約10分)」「注意点(固有名詞の聞き間違いがあるので名前と数字は確認する)」の4項目です。
最後の「注意点」まで書くのがポイントです。うまくいかなかった点を正直に書いた事例ほど、読んだ人が安心して試せます。集めた事例を SharePoint に一覧で残せば、新しく入った人の教材にもなります。
集めた事例は、次の2つに使います。
- 事例の一覧にまとめる ―― SharePoint のページなどに、部門・業務・かかった時間の変化で探せる一覧を作ります。「うちの部署でも使えそうなもの」を探せるようにすると、他部署の関心が自然に集まります
- 研修の教材にする ―― 他部署の事例を、自部署の業務に置き換えて再現する演習にします。受講者にとって最も身近で、使う場面を具体的に想像しやすい教材になります(研修での使い方は後編で扱います)
一覧は部門別に並べるだけでなく、業務の「型」でくくると、部署をまたいで使い回しやすくなります。
K.S.Rogers の現場から
当社の支援先では、部署ごとの個別の業務から入っても、型でくくると、帳票の読み取り・転記/集計・報告書の作成/紙の記録のデータ化と検索/予定の共有、の4つ程度にまとまりました。たとえば「SharePoint にファイルを置くと Power Automate が動き、Copilot で処理して Excel に出す」のように、入口・処理・出口を同じ形にそろえておくと、1つの部署で作った型を、別の部署にそのまま持ち込めます。
中小企業が真似しなくてよい施策
大企業の生成AI活用を調べると、全社員を対象にした大規模なスキル診断、自社専用の大規模言語モデル(LLM)の開発、数百人規模の開発者育成といった施策が目に入ります。これらは、専任のデジタル部門と投資余力を持つ大企業だから成り立つ施策です。社員数十〜数百人規模の非IT企業には、次の施策はおすすめしません。
- 全社員の大規模なスキル診断 ―― 設計と集計に手間がかかるわりに、業務の変化につながりにくい。代わりに、使用状況レポートで使っていない部門を見つけて声をかけます
- 自社専用AIの開発 ―― 開発と運用に費用と人材が必要です。Microsoft 365 Copilot で社内データを参照できれば多くの目的は満たせるので、代わりにデータの置き場所を整えます
- 独自の研修プログラムを一から作る ―― 教材作りで展開が遅れます。Microsoft が無料公開しているCopilot Success Kit(導入計画のチェックリスト、ユーザー向けガイド、業務別の使い方集、周知テンプレートなど)や中小企業向けの Success Kitを土台にし、自社の業務の例と社内ルールだけを足します
大企業の事例から学ぶべきは、施策の規模ではなく順番と考え方です。
定着を測る ― 使用状況レポートで見る指標
Microsoft 365 管理センターの Copilot 使用状況レポートでは、過去7・28・90・180日の期間で次の数値を確認できます(出典:Microsoft Learn「Microsoft Copilot の使用状況レポート」)。
| 指標 | 意味 | 使い方 |
|---|---|---|
| 有効なユーザー | Copilot ライセンスを持つユーザー数 | 配った席の数 |
| アクティブユーザー | 期間中に Copilot の機能を実際に使ったユーザー数 | 使われている席の数 |
| アクティブユーザー率 | アクティブユーザー ÷ 有効なユーザー | 定着の度合いを見る基本の数字 |
| ユーザーごとの最終利用日 | 最後に Copilot を使った日(アプリ別にも見られる) | 長く使っていない人に声をかける、席を付け替える |
アクティブユーザーは、画面を開いただけでは数えられず、プロンプトを送るなど意図的に操作したときに数えられます。どの部門・どのアプリで使われていないかを見て、次の研修やチャンピオンの働きかけに反映させます。
第1回で述べたとおり、有償の席は使われていなければ費用を回収できません。90日を目安に最終利用日が古い席を洗い出し、本人と上司に確認したうえで付け替えます。数字は社員を責めるためではなく、支援が届いていない場所を見つけるために使います。
定着化のチェックリスト
- 「会社のアカウントのCopilotは学習に使われない」ことと、個人アカウントの無償AIとの線引きを周知した
- 「使う人」と「広げる人」を分け、それぞれのゴールを決めた
- 各部門のチャンピオンが決まり、活動時間について上司と合意している
- 社内コミュニティ用の Teams チャネルがあり、質問に24時間以内に反応している
- 事例を決まった型で集め、部門・業務で探せる一覧にしている
- 使用状況レポートでアクティブユーザー率を毎月確認し、使われていない席を付け替えている
研修側のチェックリストは後編にまとめています。
K.S.Rogers の定着化支援
K.S.Rogers では、Microsoft 365 Copilot の全社展開後の定着化を、仕組みづくりから伴走しています。社内への周知文の作成、チャンピオンの立ち上げと定例の運営、事例の集め方と一覧づくり、使用状況レポートの見方まで、社内に仕組みが残る形で支援します。
M365 の導入・ファイル移行から Power Platform・Copilot の活用までの支援の範囲と進め方は、Microsoft 365 導入・活用支援のページにまとめています。
「展開はしたが使われていない」という段階からでも、お問い合わせよりお気軽にご相談ください。
まとめ
- Copilot の定着化はライセンスを配ったあとに始まります。使われない原因は、仕事と結びつかない・不安が残る・聞く相手がいない・理解の速さに差がある、の4つです
- 「会社のアカウントのCopilotでは入力内容が学習に使われない」ことを、個人アカウントの無償AIとの線引きとセットで明言します
- 社員を「使う人」と「広げる人」に分け、各部門のチャンピオンが相談に乗り、隣の部署でも真似できる事例を集めて回します
- 定着は使用状況レポートで毎月確かめ、数字は支援が届いていない場所を見つけるために使います
後編では、この仕組みの上で行う社内研修の進め方を扱います。理解の速さの差を越える段階別の研修と、研修を「やりっぱなし」にしない復習の仕組みです。
よくある質問
Q.Microsoft 365 Copilotが全社展開後に定着しないのはなぜですか?
A.多くの場合、原因は社員のやる気ではなく、自分の仕事のどこで使えばよいか分からない、入力して大丈夫か不安が残っている、困ったときに聞ける人がいない、理解の速さに差があり分からなかった人から使わなくなる、の4つです。1回の説明会では解消できないため、展開後の数か月をかけて仕組みで解消します。
Q.Copilotのチャンピオンには、どんな人を選べばよいですか?
A.ITに詳しい人より、担当業務に詳しく、普段から周囲に相談されている人が向いています。部門に1人を目安に置き、業務時間の一部を活動に使ってよいことを上司と合意しておきます。
Q.社員が「入力した内容がAIに学習されるのでは」と不安がって使いません。どう伝えればよいですか?
A.会社のアカウントで使う Microsoft 365 Copilot では、入力内容や社内データが基盤モデルの学習に使われないことを、Microsoftの公式情報を根拠に会社として明言します。個人アカウントの無償AIは業務で使わないというルールもセットで伝えます。
Q.現場のベテラン社員が、AIの活用に前向きになれません。どう伝えればよいですか?
A.「ベテランの自分のほうができる」「自分の仕事に意味がないと言われているようだ」と感じている場合は、AIは競争相手ではなく隣で支える相棒であること、省人化しても人は要ること、使う本人にもメリットがあることを、1回で終わらせず繰り返し伝えます。社内の成果を広報資料やデモ動画で紹介し、身近な使い方を見てもらうことも効果があります。
Q.Copilotが定着しているかどうかは、何を見れば分かりますか?
A.Microsoft 365 管理センターの使用状況レポートで、ライセンスを持つ人のうち実際に使った人の割合(アクティブユーザー率)と、ユーザーごとの最終利用日を確認できます。社内で共有された活用事例の件数もあわせて追います。