SESの新人抱き合わせは終わり、残るのは企画の上流と運用保守の両端だと思うARTICLE
ARTICLE代表コラム
前回のコラム「フリーランスエンジニアの自由な働き方は、これから続かなくなると思う」では、個人の働き方の話を書きました。今回は、会社の側の話です。受託開発や SES で食べてきた会社が、AI駆動開発でどう変わるか。当社もその一社なので、他人事ではありません。
先に断っておくと、これは業界の構造の話であって、特定の会社の話ではありません。当社の取引先にも SIer や SES の会社はありますし、それぞれ事情が違います。ここで書くのは、構造としてどこに力がかかっているか、という観測です。
新人を抱き合わせる型が、成り立たなくなる
SES や SIer には、長く続いてきた型があります。経験者のチームに新卒やジュニアを何人か抱き合わせて案件に入れ、単価の差で利益を出しながら、現場で育てる。発注側も、人数が要る案件では、多少経験が浅くても手が増えるなら受け入れてきました。エンジニアが足りなかったからです。
この型が、成り立たなくなると思っています。AI駆動開発が進んだ現場では、ジュニアが担ってきた仕事、つまり指示されたとおりにコードを書く、テストを書く、調べて直す、といった仕事の多くを AI がやります。しかも、経験者が AI を使ったほうが、ジュニアを入れるより速くて安い。発注側から見れば、「人数」に払う理由がなくなります。
新卒やジュニアの需要は、かなり細るはずです。これは、育てる側の責任が重くなる、という話にはしたくありません。ジュニアの側が、自分でどれだけキャッチアップして、勉強して、ジュニアを脱せるか。そこにかかっていると思います。現場で数年かけて自然に育つ、という時間の猶予は、もうないと思ったほうがいい。逆に言えば、AI を使って自分で学べる人は、以前より早く経験者の側に回れます。
中間から契約が切れ、両端が残る
抱き合わせが成り立たなくなると、SES や SIer が売ってきた「手を動かす人月」の中間部分が薄くなります。要件が決まっていて、それを言われたとおりに作る仕事は、AI と少人数の経験者で回るからです。実際、当社の周りでも、この中間の仕事から契約が切れていく傾向が増えていると感じます。
残るのは、両端だと思っています。
一つは、企画の上流です。何を作るかがまだ決まっていない段階で、事業の課題を聞き、要件定義に落とし、投資の判断まで一緒にやる仕事。ここは AI が代わりにやれません。相手の会社の中に入って、本当のことを聞き出さないと決められないからです。
もう一つは、運用保守です。作って終わりではなく、動かし続ける責任を丸ごと引き受ける仕事。障害対応、改善、法改正や環境の変化への追従、次の投資の提案まで含めて、その会社のシステムを預かる。ここも、単発の人月では成り立ちません。信頼と継続の話だからです。
どちらも、「言われたものを作る」より前か、後ろにあります。作る部分は AI が速くなる一方で、決める部分と、動かし続ける部分に価値が寄っていく。そういう構造だと思います。
当社も両端に寄せているが、時間がかかる
当社もこの数年、企画の上流と運用保守に力を入れています。要件定義支援を事業として立て、AX支援では業務の中に入って伴走する形を取っています。方向は間違っていないと思っています。
ただ、正直に書くと、両端に食い込むのは時間がかかります。上流に入るには、相手の事業を理解し、任せてもらえる信頼を積む必要があります。運用保守を丸ごと預かるには、体制と、長く付き合う覚悟が要ります。どちらも、来月から売上になる話ではありません。
大手には、それを待てる資本の体力があります。中間の売上で食いつなぎながら、両端に移っていける。ベンチャーにはそれがありません。中間が先に細るのに、両端はすぐには育たない。時間軸的に待っていられない、という会社は、当社に限らず多いはずです。
それでも、両端に寄せる
それでも当社は、両端に寄せ続けます。理由は単純で、中間に留まっても、そこは細っていく一方だからです。待てないのなら、早く動くしかない。
具体的には、こういうことをやっています。案件の入口を「作ってほしい」ではなく「何を作るべきか決めたい」に寄せる。作ったものは、作りっぱなしにせず、運用まで預かる前提で提案する。そして、エンジニア一人ひとりが、コードを書く人ではなく、相手の業務を理解して決められる人になる。前々回のコラムで書いた挨拶と心構えの話も、結局はここにつながります。
SES や SIer の型が終わるのは、エンジニアが要らなくなるからではありません。「人数」に払う理由がなくなるだけです。決める人と、動かし続ける人には、これからも払われる。ベンチャーの経営者としては、そこに間に合うかどうかが、この数年の勝負だと思っています。